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【知るなきにしかず】 [かわうそ@暦]

【知るなきにしかず】
 知らない方がよい。知るには及ばない。《宋名臣言行録》

 「知っておくに越したことはない」ということも多いですが、知らない方がよいことも世の中には、ままあります。これ、私の好きな言葉の一つです。この言葉は、宋の太宗(趙匡義)の時代に宰相を務めた呂蒙正(りょうもうせい)の言葉です。呂蒙正は、難関中の難関試験として知られる中国の高等官僚試験、科挙を33歳で突破(成績第一位)し、それからわずか11年で宰相まで上り詰めた気鋭の官僚です。当然これほどの異例の出世を遂げれば、それを妬むものも多かったはず。

  もとより知るなきにしかず(固不如無知也)

 この言葉は呂蒙正が国政の担当者として廟堂に立って間もなくの言葉です。ある日、執政として宮廷に入った呂蒙正を簾の陰から「あんな奴が執政か」と聞こえよがしに言う者があったそうです。呂蒙正は聞こえなかったふりをしてそのまま通り過ぎましたが、一緒に歩いていた同僚がおさまりません。何て失礼な奴だ。誰だったか調べてくる。と引き返そうとしたが呂蒙正はこの同僚を押しとどめ、言った言葉が「知るなきにしかず」でした。多少の嫉み妬みは気にしなければよい。とはいっても、もしそれを言った者が誰だか知ってしまえば、もう忘れることは出来ない。だから知らない方がよいのだと言うのです。もとより呂蒙正は、そんな嫉み妬みにへこたれるような人物ではないでしょうし、本人もへこたれない自信を持っていたと思いますが、そうは言いながら知ってしまえば忘れることは出来ない。将来、陰口をたたいたと知ってしまった者から建言があったとしたら、本当にその建言の内容だけを正しく評価できるだろうか? そんな人の心の機微も知っていたから「知るなきにしかず」と同僚を押しとどめたのでしょう。どんなによい行いだと思ってしたことでも、必ずどこかから非難されることはあります。陰口をたたかれることもあります。正しいことをしたという信念があれば、非難や陰口など気にしなければよいのですが、それが出来るほど人間は強くありません。時には「知るなきにしかず」と聞かなかったことにすることが弱い人間を強くする方法なのかもしれません。

                          (「2024/01/13 号 (No.6314) 」の抜粋文)
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