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新年の火 [かわうそ@暦]

□新年の火
 今年も残すところ、あと二日。皆さん、年越しの準備は出来ましたか?あと二日で年越しとなると言うことで本日は、新年に使われる「火」の話を採り上げてみることにしました。

◇「火」との関わり
 人間の定義の一つとして、火を使う動物というものがあります。このような定義が出来るほど、人間の生活と火とは密接に結びついたものでした。日々の食事の煮炊きに、暖をとるに、明かりに、危険な野獣や時には悪霊を遠ざけるために、火は使われてきました。そうした、生きて行く上でなくてはならない火を特別なものと捉えていたためでしょうか、新しい年を迎える行事の中には、この「火」に関係するものがあります。その内容を見てゆくと、「火」に対する様々な思い、考え方の違いがあって面白いなと思えましたので、本日はこの「新年の火」の話を取り上げてみようと思ったのでした(う、暦とは無関係の話だな・・・)。新年の火にまつわる行事や風習を見てゆくと、大きく分けて、次に掲げる三つの型に分かれるようです。

  ・新年には新しい火を用いる
  ・旧年からの火を引き継いで用いる
  ・特別に大きな火を焚く

◇新年には新しい火を用いる
 新しい年になれば、新しい清い火を熾してこれを使い続けるというもの。それまで用いていた火種ではなく、きりび(「鑽火」または「切火」)と呼ばれる新しい火を熾します。「きりび」は檜(ひのき)のような堅い木で作った火鑽臼(ひきりうす)と呼ばれる板に、これも堅い木質の山枇杷(やまびわ)などで作った、火鑽杵(ひきりぎね)と呼ばれる棒を揉み込んで熾した火で、神聖な清らかな火とされます。新年を迎えるに当たって、この方式で鑽火を熾す鑽火神事を行い、これによって生まれた清い火を、参拝者に分ける神社もあります。京都の八坂神社で大晦日から元日にかけて行われる「朮祭(おけらまつり)」は、そうした行事の一つで、参拝者は鑽火を火縄に移して持ち帰り、この火種から熾した火で、新年の雑煮を作ります。鑽火は、木と木の摩擦から生まれた新しい火。まだ何物にも触れず、穢されたことのない清浄な火と考えられたのでしょう。鑽火神事などはその清浄な火によって新しい一年を迎えようとういうものです。ちなみに朮祭の朮(おけら)は生薬や蚊遣の材料となる植物で、本殿前で鑽火を点火した鉋屑(かんなくず)に混ぜられています。このため、鑽火を移した鉋屑からは芳香が漂うそうです(残念ながら、嗅いだことがない)。

 ※火打石と火打金とを打ち合わせて出した火も新しい火、「きりび」です。こちらは漢字で書けば、「切火」の方でしょうか。こちらも、新しい清浄な火と考えられます。

◇旧年からの火を引き継いで用いる
 新しい火を熾して新年を迎えるという考えに対して、こちらは、それまでの火を受け継ぎ絶やさないようにして、新しい年を迎えるというものです。こちらは大晦日の晩に、囲炉裏に正月中持つように大きな樫(かし)等の堅い材質の木をくべ、火が絶えないようにしたそうです火を絶やさないようにくべる木片(というには大きいが)を世継榾(よつぎほだ)と呼ぶそうです。今では、囲炉裏自体がなくなりましたので、それとともに廃れてしまった行事ですが、火の永続性を願う行事だと考えられます。人間生活に欠かせない火の永続を願うと云うことは、その家が代々絶えることなく続いてゆくことを願った行事のようにも思えます(「世継榾」というくらいですからね)。

◇特別に大きな火を焚く
 新しい火、旧い火という分類にはそぐわないですが、もう一つ、年越しの夜には盛大な火を焚くという風習もありました。これも、囲炉裏があった時代の話ですが。年越しの夜には、屋根裏まで届くほど盛大な火を焚き、その火が大きければ大きいほど、縁起がよく、福が呼び寄せられると云われたそうです。火は、不浄なものを焼き祓い、浄める力を持つものですから、盛んな火の力によって、家中を浄め、新年を迎えるという意味のある行事だったと考えられます。

◇今の人間は「火を使わない動物」?
 新しい火を用意するにしても、旧い火を引き継ぐにしても、いずれも火を絶やさないようにして暮らしていた人間の歴史を新年を迎える行事の中に見ることが出来る気がします。火を大切に扱ってきたご先祖様達の姿が浮かびます。今はどうかと考えると、どの行事も「昔のもの」になりつつあります。何と言っても、家の中で「炎」を目にする機会がなくなってきましたから。照明で火を使うことはなくなりましたし、暖房器具も、炎を目にすることの出来るものは少なくなっています。今はまだ、煮炊きにガス等の火が使われていますが、それすらも電気に取って代わられたという家も多くなったことでしょう。この分で行くと「火を使う動物」だった人間も、その大部分が「火を使わない動物」になっていってしまうのかな?この調子だと、そのうちに「新年の火」の話なんて書いても、火ってなんですか?なんていう質問が舞い込むようになるかもしれませんね。そうならないうちに、この話を書いておいてよかった・・・のかな?

                          (「2022/12/30 号 (No.5935) 」の抜粋文)
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