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【直きこと其の中に在り】(なおきこと そのうちにあり) [かわうそ@暦]

【直きこと其の中に在り】(なおきこと そのうちにあり)
 論語・子路篇、十八
 (原文)
 葉公語孔子曰、吾党有直躬者、其父攘羊、而子証之。
 孔子曰、吾党之直者異於是、父爲子隱、子爲父隱、直在其中矣。

 (訳文)
 葉の殿さまが、孔子に自慢話をされた。
 「近郷に正直者の躬(きゅう)という者がおる。
  彼の父が羊を盗んだところ、息子の躬が証人となって訴えでたのである」

 孔子が答えた。
 「私の近郷の正直者はちと変わっています。親父は息子の罪をないしょに
  しますし、息子は親父の罪をないしょにします。
  そういう見かけの不正直のなかに本当の正直がこもっているのです」

  《原文・訳文は、貝塚茂樹訳注「論語」(中公文庫・14版)より》

 本日は辞書から離れた、いつもとは違った雰囲気のコトノハです。「直きこと其の中に在り」は辞書の見出語にはならないでしょうから、仕方なく。でも私にとっては大切な言葉なので無理矢理、採り上げてみました。葉公とは、葉という地域を治めた長官のことです。学者として高名な孔子ががたまたま葉の地に滞在していると知って、これを招いて自分の治政がいかに優れているかをちょっと自慢してみたという一幕です。父親の犯罪行為を訴え出るほどの「正直者」がいるくらい、法令が行き届いているんだと。ところが、孔子の話は葉公の「褒めて欲しいな」という思惑とは方向が違いました。「私の故郷でいう正直者は、お国の正直者と違っているようです」と孔子の生まれ故郷の正直者の話を始めました。

  直きこと其の中に在り(直在其中矣)

 本日取り上げたは言葉は孔子の話の最後に登場します。論語にあっては、比較的長めの文(これでも)ですが、いろいろな場面で思い出すものなので、本日のコトノハで取り上げてみることにしました。「済みませんが、規則なので出来ません」日常のいろいろな場面で、こうした言葉を耳にします。自分自身が使うこともあります。何と云っても便利ですから。こう言えば、いちいち面倒な説明を加える必要がありません。法律や規則の利点は、分かる明確な指標を与えてくれることです。その法律や規則が作られるに至った、様々な難しい問題を時間をかけて考えずとも行うべきこと、守るべき範囲が直ちに分かります。迷う必要がありません。「この問題を解く場合には『公式A』を使います」の公式Aのようなもの。限られた時間で試験問題を解くようなときは、公式Aを暗記していることは強力な武器になります。ではこの便利な『公式A』はどうして作られたのでしょう?誰が、どうやって、そして何のために公式を作ったか。時にはそんなことを考えなければ、本当の問題を解くことは出来ないと思います。葉公は、羊を盗むという罪を犯した父親を訴えた息子の法の下での正しい行いを誇りました。これに対して孔子は「正しさとは何か」を語っています。法律や規則は、よりよい社会、秩序ある社会を作るために作られたものですから、これを守ることは正しいことでしょう。では、法律や規則が作ろうとした「よりよい社会」とはどのようなものなのでしょう。法に従って、父の罪を暴き、これを訴えた息子が「正直者」と呼ばれる社会がよい社会なのか?孔子の「直きこと其の中に在り」という言葉の「其の中」とは何か、この言葉を思い出しては、考えるようにしています。


                          (「2024/04/27 号 (No.6419) 」の抜粋文)
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