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フランス革命暦 [かわうそ@暦]

□フランス革命暦
 本日の暦のこぼれ話はちょっと、毛色の違う暦の話。かつて短期間存在していた「フランス革命暦」という暦についての話です。暦にはそれぞれ長所もありますし短所もあります。現在私たちが使っている暦(新暦、グレゴリウス暦)は良くできた暦ですがそれでも欠点はあります。主な欠点を挙げれば

 ・月の日数がまちまちで、法則性がない
 ・年首(としの始め)の位置に意味がない
 ・うるう年と平年で月の日数が変化する(2月が)。
 ・日付と曜日の関係が年毎に異なる

 などがあります。最後の一つは一週七日という、特定の宗教と強く結びついたサイクルとの関係なので暦の問題とばかりは言えませんが、宗教行事とは無関係に生きているつもりでいても、日本ですら日常の生活はこの一週七日のサイクルで回わされることが多いことを考えると、元となった宗教の色を否定したところでこのサイクルを無視して生活することは困難です。さて、欠点のあるものを使っていると気付いた場合、これにどう対処するかと考えると、

  A.欠点を容認して「慣れる」。
  B.根本はそのまま残し、欠点の影響が小さくなるように「改良する」。
  C.欠点を分析して根本から「作り直す」。

 といった選択肢が考えられます。現在の私たちはA案ですね。Bはユリウス暦からグレゴリウス暦への改暦などがこれに当たります。基本的には前の暦の規則を踏襲しながらその一部だけを修正する(この例の場合は閏年の規則を直し、それまで累積した誤差を取り去る処置をとった)するもので、この方式であれば暦を使う側への影響は最小限にとどめることが出来ます。ただ、このB案では、小さくなったとはいえ根本的な欠点は残ったままですのでスッキリはしません。スッキリするために、こんな小手先の技ではなく根本から直してしまおうというのがC案ですが、これは社会的な影響が大きいので、おいそれと実行することは出来ません。このC案を実行出来るタイミングとしては社会の大変革の時期が一番。どうせ大変革期は社会生活は混乱しますから、改暦の混乱が加わっても同じじゃないかというわけです。明治の太陰太陽暦(天保暦)から現在の太陽暦(グレゴリオ暦)への改暦などはこのC案の例だといえるでしょう。ただし明治改暦は新たな暦を作った訳ではなく、既にヨーロッパを中心に広く使われていた暦への切り替えでしたが。このC案の例としてもう一つ思い浮かぶものを挙げるとしたらそれはフランス革命暦への改暦だろうと思います。このフランス革命暦は暦の合理性と宗教色の排除を追求して新たに作られた暦ということで、改暦の歴史上でも一際異彩を放った暦です。

◇フランス革命暦の誕生
 フランス革命暦は西暦1792/09/22に始まります。この前日1792/09/21はフランスの王制が廃止された日です(ちなみに最後の国王ルイ十六世はこの 4ヶ月後に断頭台で処刑されました)。王制廃止後、国民公会(議会)は合理的かつキリスト教的な色彩を排除した暦の作成に着手し、わずか2ヶ月ほどで新しい暦を作り上げて、これを公布しました。この新しい暦が「フランス革命暦」です。

◇フランス革命暦の概要
 フランス革命暦は次のような規則で組み立てられました。

 ・1年の始はパリにおける秋分を含む日とする。
 ・1792/09/22に始まる年を「共和国第一年」とする。
 ・1月を30日、1年を12ヶ月とし、年末に 5日( 4年に1度は6日)の余日を置く。
 ・1月を10日ごとの3旬に分け、旬の最終日(10,20,30日)を休日とする。
 ・1日は10時間。1時間は 100分、1分は 100秒とする。
 ・暦月名は新たに決めた名を用いる。

 暦の上での宗教色を排除し、それまでの伝統との暦との連続性なども否定した新しい暦でした。ちなみに新しく決められた暦月名は

  1.葡萄の月  2.霧の月  3.霜の月 (秋)
  4.雪の月   5.雨の月  6.風の月 (冬)
  7.芽吹きの月 8.花の月  9.草の月 (春)
  10.収穫の月  11.熱の月  12.実りの月(夏)

 と、 3月毎に一つの季節としてそれに併せた名前が付けられました(もちろんフランス語ですけど)。元々のフランス語の発音では四季それぞれに属する 3月の名前は韻を踏むように作られているとか。編暦委員に著名な詩人も加わっていたそうなので、気を配って名付けたようです。

◇革命暦ができたけど
 新しい暦が生まれた訳ですが、あまりに性急で、またあまりに大きな変革を行ったため、いろいろな混乱が生じました。笑えるところとしては、10進法にあわせた時計製造が間に合わなかったなどと言うものもあります(本当は笑い事ではないことですが)が、それ以上に困ったことは、フランス以外ではこの暦を使っていませんから、外国とのやり取りでは日付の変換表が欠かせなくなってしまったこと。月の名前にしてもよその国では全く通じないものばかり。日本のように鎖国でもすればそれでも何とかなったと思いますが、地続きのヨーロッパではそうも行かなかったようで、斬新で合理的な暦のはずのフランス革命暦でしたが、他の皆が非合理な暦を使い続ける国際社会の中で考えれば、やっかいな変わり者という以外の評価は得られませんでした。そして現在。フランスではどんな暦を使っているかといえばグレゴリウス暦です。なんのことはない欠点の多い普通の暦に戻っております。社会の大変革期に行われた歴史的実験、フランス革命暦ですが結局は実験で終わり、実用としては定着することはなく、わずか12年でその寿命が尽きてしまいました。今から考えればフランス革命暦の変革は急速すぎ大きすぎたようです。暦の合理性を追求することは必要なことですが、その暦を使うのが非合理極まりない人間達だということを忘れていては、長続きしないということのようです。現在の暦の欠点を挙げて、改暦の必要性を訴える人は今もまだ後を絶ちませんが、その改暦案がフランス革命暦より上手く根付くものかどうか、よく考えた方が良いようです。

                          (「2023/10/04 号 (No.6213) 」の抜粋文)
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