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昼と夜の境、「夜明」と「日暮」の話 [かわうそ@暦]

■昼と夜の境、「夜明」と「日暮」の話
 秋も深まり「日(昼)が短くなりましたね」という会話が日常でもなされるようになってきた今日この頃です。皆さんも、何気なくこんなことをおっしゃっていませんか?昼が短くなったということは、夜が長くなったということですから、秋には「秋の夜長」なんていう言葉も出来ております(「夜長」については、最近コトノハで採り上げました。宣伝)。ところでここで質問です。昼が短くなった、夜が長くなったといいますが、このときの昼と夜の境界はどこでしょうか?

◇昼と夜の境界
 現在は昼と夜の境界といえば日出、日没の瞬間と考えるのが一般的ではないでしょうか? かく言う私も「今日の昼の長さは」という質問があった場合には、日出から日没までの時間を計算して答えるのが普通です。ですが日常、日が沈んだからといってもいきなり暗くなるわけではなく、しばらくは外は明るい状態が続きます。子供の頃の私なんかは、本当に足下が暗くて見えなくなるくらいまで外で遊んでいました。当時の私からすれば昼の活動(この場合は外で遊ぶこと)の終わりは日没ではありませんでした。屋外での活動が可能な明るさが残っているうちは、私にとっては「昼」だったのです。この感覚は、昔の人、たとえば江戸時代の人も同様だったようです。いえ、昔の方がより顕著だったでしょう。何せ今と違って人工の照明は高価なものでしたし、そんな高価なものであっても今の照明とは比べものにならない弱々しい照明でしたから、日没後であっても明るさの残っている時間は屋外での活動が可能な「昼」の時間と考えられていたのです。日没後の話ばかりしてきましたが、これは日の出前の明るい時間帯でも同じです。そうしたわけで、江戸の昔の人たち屋外での活動が可能となるような明るさで有るか無いかで昼と夜の境界と考えていたようです。そしてこの境界を「夜明(よあけ)」「日暮(ひぐれ)」とし、夜明~日暮までを昼、日暮~夜明までを夜としていました。また当時日常生活に使っていた時刻は昼の時間を六等分、夜の時間も六等分して表しておりましたので、夜明と日暮はこの時刻方にとっての区切りとなっておりどちらもこの時刻法で「六つ刻(むつどき)」と呼ばれていたことから

  夜明 = 明六つ(あけむつ)
  日暮 = 暮六つ(くれむつ)

 と呼ばれるようになりました。この時刻法でも昼と夜の区切りは日出、日没ではありませんでした。

◇明六つ、暮六つはいつ?
 このように日出、日没のような現象ではなく、明るさ基準で決められた明六つ、暮六つですが、この明るさ基準には困った問題があります。それはどうやって明るさを測るかということです。現在なら照度計のように機械的(?)に明るさを測る装置もあるでしょうが江戸の昔にはそんなものはありません。ではどうしていたかというと経験的に判定していたということです・・・。たとえば今でも屋外で新聞が読める明るさであるとか、一番星が見え始めるまで(あるいは最後の星が見えなくなるまで)明るさだとかで、経験的に明るさを測る基準を作ることが出来ますが、江戸時代のものも似たようなもの。当時の記録を見ると腕を伸ばして手のひらの筋の大きなものが一筋、二筋見えるが細い筋は見えないほどの明るさとあります。なるほど、いい基準があるんですね・・・。でもやってみれば判りますが、こんな基準(?)できちんと測定することなんて、よほど熟練した観測者じゃなきゃ無理な話。それに、まだその日になっていない未来の暦を作るものにとっては、こんな「その日にならないと測れないもの」では困ってしまいますので、この状態を何らかの計算方法で再現する必要があります。まず考えられたのは、熟練した観測者が手のひらの筋を数えながら決めただろう夜明、日暮と日出、日没の間の時間を計って日出、日没の計算値にこの値を加減算する方法。簡単なのでこの方法が長らく使われていました。ちなみにこの夜明~日出、日没~日暮の時間は現在の時間で言えば36分でした(正しくは1日を100刻としたときの2刻半)。ただ聡明な日刊☆こよみのページの読者諸氏は既にお気づきのことと思いますがこの夜明~日出等の時間は季節によって多少変動するはずなので、いつも一定とするのはどうかな?ということで1798年から使われた寛政暦ではこの季節変化を考慮し、一定の時間にかわって明るさの変化の元となる太陽の地平高度角に置き換えて、太陽がこの高度角となる瞬間を計算で求めることにしました。「太陽の中心の伏角が7°21′40″になる時刻」これがその時に定められた定義(角度の単位は今風に書いてますけど)。伏角とは、夜明、日暮の時刻の太陽は地平線の下にありますから、地平線から下向きに計った角度の意味です。この定義は寛政暦の後の天保暦にも受け継がれ、更に現在にも伝えられていて、この定義に従った東京の夜明、日暮の時刻が理科年表の暦部に掲載されています。ちなみに、本日2023/10/14で計算(計算値は東京)すると

  夜明 5時14分
  日暮 17時40分

 となります。さてこの夜明と日暮は皆さんの感じる昼と夜の境界の時刻と一致しますか否か? いかがでしょうか。

                          (「2023/10/14 号 (No.6223) 」の抜粋文)
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