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「うるう秒」がなくなる? (その2) [かわうそ@暦]

■「うるう秒」がなくなる? (その2)
 しばらく間が空いてしまいましたが、『「うるう秒」がなくなる?』の2回目です。1回目と同様に読みやすさ等の観点から、ここでも「うるう秒」は「閏秒」と漢字表記を使うことにしますので、ご了承ください。

◇天文時(UT)
 前回説明した太陽の南中と南中の間隔として得られる真太陽時のような、天体観測の結果から得られる時系(time scale)を天文時といいます。真太陽時そのものには、地球の公転による太陽の見かけの運動の要素が入り込んでしまいますが、この公転による要素を取り除いた、地球の自転に基づいて作られた天文時系を世界時(UT:Universal Time)といいます。これまでの説明では、太陽の南中という現象を例にとって説明していましたが、地球の自転の測定には現在は、太陽より正確に計測できる恒星や非常に遠方にある銀河系外の電波天体などを使った観測のデータが使われており、マイクロ秒(百万分の一秒)単位での計測が為されています。こうした世界中で行われている地球自転の観測データはERS(International Earth Rotation Service:国際地球回転事業)という国際機関に集められ、整約されて世界時(UT)が決定されています。なお、UTもどのような補正が行われるかによってUT0,UT1,UT1-R,UT2等の種類があるのですが、現在は主にUT1(観測結果に地球の極運動補正を行って得られたUT)が用いられています。

◇原子時(TAI)
 観測対象の天体や観測機器の変化はあったものの、人間の歴史が始まって間もなくから20世紀に入る頃までは、最も正確な時系は前述した地球の自転に基づいた天文時であることは変わりがありませんでした。時計によって測られる時間は、あくまでも天文時を補う物という位置付けでした。時分秒といった短い時間の長さは天体観測であることは困難なため、そうした部分は時計で測ったわけです。太陽の南中を観測した瞬間に時計を「正午」に合わせて、その時計で時間を計り、翌日の太陽の南中の瞬間にまた時計を合わせるといった例を考えて頂ければ分かりやすいでしょうか。13世紀後半に誕生したといわれる機械式時計は、進歩して精度を高め、17世紀にクロノメーターと呼ばれる高精度の時計が生まれ、その精度は1日に3秒程度とまでなりましたが、それでも地球の自転の方が、そうした高精度機械式時計より更に正確に時を刻んでいましたので、時計の時間は天体観測の結果に合わせてリセットするものだったのです。

※例として「太陽の南中」を採り上げましたが、このくらいの精度の話だと太陽の観測ではなくて、恒星を観測となります。例えの話ということでご了承ください。

 ところが20世紀も中頃になると、それまでの機械式時計とはまったく異なった高精度の時計、水晶発振時計や原子時計、が作られるようになりました。特に原子時計は、原子や分子が特定の周波数の電磁波を放射・吸収するという不変の物理特性を活かして、正確な1秒という時の長さを測り、これを積算してゆく時計で、その精度は「数千万年~数億年に1秒の誤差」という超高精度時計です。これだけ高精度な時計が生まれると、いろいろなことが分かってきます。例えば、これまでは「かなり安定している」と考えていた地球の自転の周期が、ミリ秒やマイクロ秒の単位で見ると、結構変動しているということ。また、地球の自転は長期的にはどんどん遅くなって行く傾向にあること(理論的には以前から知られていた永年加速(減速?)現象。それが具体的に見えるようになった)など。こんな不安定なものより、極めて安定な原子時計から得られる「時間」の方が良くない? それに、天文時は実際に観測してみるまで分からないという不便さもあり、その点では見ればわかる時計の利便性は大きい。ということで、原子時計により示される時系、国際原子時(TAI:International AtomicTime)が生まれました。

◇協定世界時(UTC)
 さて簡単に「数千万年~数億年に1秒の誤差」と書きましたが、これほどの高精度時計が出来てしまうと「1秒の誤差」の1秒って何を基準に決めた1秒?ということが問題になります。結論としては、それまで長らく使われてきた天文時で採用されていた

  1900年1月0日における平均太陽日の1/86400 = 1秒

 の1秒の長さを原子時計の原理である原子等の放射・吸収する電磁波の周波数で再定義したものを「1秒」とすることにしました。現在使用される国際単位系(SI単位系)では1967年にこうして再定義された1秒は、セシウム133原子の基底状態の二つの超微細構造準位の遷移に対応する放射の周期の91億9263万1770倍の継続時間という値が使われています。

※TAIの1秒の長さを決定した際の本来の天文時の1秒の定義は「暦表時の1900年1月0日12時における太陽年の1/31556925.9747倍」なのですが、煩雑かつ分かりにくい数値になるので、途中の説明を1つ2つ飛ばして、平均太陽日で説明しています。悪しからず。長く時を測る基準であった天文時に於いては「1秒は1日の1/86400の長さ」という考え方でしたが、原子時の考え方では「1日は1秒の86400倍の長さ」となり、両者で時の長さの主従が逆転したように見えます。天文時と原子時とでは、その時刻の刻み方がまるで逆なのですが、とはいえ使う側からすると同じ「時刻」を示すもの。二つがまったく別々では使いにくくて仕方ないですから、どこかで両者の関係を調整する必要があります。まず最初に為されたのが1秒の長さを揃えること。これに関しては既に書いたとおり、原子時が天文時の定義に合わせる形で1秒を平均太陽日の1/86400の長さにしました。次に、どこかの時点で天文時と原子時を一致させる瞬間を作りました。時の流れを座標だと考えれば、座標の原点を定めたということです。こちらについてもやはり後発の原子時が先発の天文時似合わせる形で、TAIの時間の積算の原点を1958年1月1日0時のUT1に一致させました。さて、こうした作業の結果1958年1月1日0時の時点で天文時系と原子時系の二つの時系が一致しました。めでたしめでたし・・・と行きたいところですがそうは行きません。原子時計の1秒の長さは固定されて変化せず、その1秒の86400倍の原子時の示す1日の長さも変化しませんが、地球の自転の周期は変動しているので、一旦一致した天文時と原子時の間には徐々に差が出来てしまうのです。どうにか、両者の折り合いを付ける必要があります。そこで考え出されたのが協定世界時(UTC: Coordinated Universal Time)です。UTCは1972に導入された管理された世界時とでもいうべき存在で、国際度量衡局(BIPM: Bureau international des poids et mesures)がTAIとUT1と一定の関係を保つように維持している時系です。日常的に使用される時刻はこのUTCに基づいており、日本標準時(JST:Japan Standard Time)はJST = UTC + 9時間と定義されます。1958年の段階で、一旦一致させたUT1とTAIでしたが、UTCが導入された1972年の時点では既に10秒近い差が生じていたため1972年1月1日0時に於いて、TAI = UTC + 10秒と定義されました。そしてそれ以後は次の様に管理されることになりました。

 ・UTCの1秒はTAIの1秒と同じ長さとする。
 ・UTCとTAIの差は整数秒となるよう調整する。
 ・UTCとUT1の差は一定範囲を越えることのないよう整数の閏秒の挿入、削除によって調整する。

 ここでようやく、閏秒の登場です。

◇現在の閏秒の規定
 さてようやくたどり着いた閏秒について、どのように運用されているのかを説明しましょう。

・閏秒は協定世界時UTCと世界時UT1との差が0.9秒以上とならないよう、UTCに対して1秒単位で挿入    または削除する秒のことである。

・閏秒の調整は第1優先順位として12月または6月、第2優先順位として3月または9月の最後に調整を行う。

・閏秒を挿入する場合は月の最後に23時59分60秒が挿入され次の0時0分0秒から次の月の最初の日が始まる。

・閏秒を削除する場合は月の最後が23時59分58秒で次の0時0分0秒から次の月の最初の日が始まる。

・地球回転事業IERSは閏秒実施の少なくとも8週間前までに閏秒調整実施の告知を行わなければならない。

※国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)勧告 TF.406 Annexより訳。文責 かわうそ@暦となっています。

 現在の閏秒はこの勧告に従って挿入、削除されています。ちなみに1972年以降、2022年までに27回の閏秒の挿入が行われましたが、削除が行われたことはありません(UT1の変動を見ていると、近いうちに初めての「削除」があるかも? とちょっと期待しています)。さてさて、ようやく「閏秒」までたどり着きましたが、この段階で既に大分長くなってしまいましたので本日の「その2」はこの辺で一旦終了といたします。

 本題の「うるう秒がなくなる?」話については、出来るだけ早く書くようにいたしますので、もうちょっとお待ちください。ではその「もうちょっと」の時間をお楽しみください(・・・)。

                          (「2022/12/14 号 (No.5919) 」の抜粋文)

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2022-12-15 [twitter投稿]



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