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「おばけ暦」の話 [かわうそ@暦]

■「おばけ暦」の話
 おはようございます。かわうそ@暦です。本日の暦のこぼれ話は「おばけ暦」あるいは「おばけ」と呼ばれる暦の話です。本日、「おばけ」の話をすることになったのは、読者の方から一通のメールを頂いたからです。まずは、きっかけとなったメールをご覧ください。

 ---- 読者の方から頂いたメール(抜粋) ----------------------------
 カワウソ@歴様
 お世話になります。質問ですが宜しくお願い致します。
 おばけ暦は明治15年より昭和20年迄続いて各年号で発行されました、と思うのですが。戦時中の昭和16年頃、六曜記載の暦が厳しく統制され、極めて昭和18年、19年のお化け暦は世に存在しないようにと思います。ではこの年のおばけ暦を自分で作成する事は可能でしょうか?作成するためには何を勉強したら良いのでしょうか。尚 昭和18年、19年のおばけ暦が入手できるのであれば、欲しい。
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 おばけ暦について、特別に勉強をしたわけでは無いのですが、最後の一文「昭和18年、19年のおばけ暦が入手できるのであれば、欲しい」には、私も同感。希少価値はマニアの血を騒がせますね。と、変な趣味の話に走る前に、「おばけ暦」とは何かについて説明しておくことにします。

◇「おばけ暦」とその誕生
 明治の改暦後、おばけ暦と呼ばれた暦が生まれました。「おばけ暦」だからって、何月にはどんなおばけが出ると言ったことが書いてある訳では有りません。誰が何処で作っているかつかみ所のないゲリラ発行の暦だったため、おばけ暦とか単に「おばけ」と呼ばれたのです。さて、ではなぜおばけ暦がゲリラ発行されなければならなかったのでしょうか。これは明治改暦によって暦から姿を消してしまったものに変わるものを記載していたからです。その明治改暦以後暦から姿を消したものというのは、暦注です。明治改暦はそれまで使われてきた太陰太陽暦から太陽暦への大改暦だったのですが、実はそれだけではなく、それまで暦に沢山書かれていた暦注と呼ばれる、日の吉凶(お日柄です)に関する記述が全て「禁止」されたという点でも大改暦だったのです。改暦の詔勅では、暦注の類を迷信であり人心を惑わせるだけのものだとあり、これがために暦への記載を禁止し「官暦」からは暦注が一斉に姿を消しました。暦注大絶滅です。まあ、これ自体は正しい判断だとも思いますが、それまでの「暦注てんこ盛り」の暦に慣れ親しんできた世間一般の者達にしたら、なんだかやたらとすっきりしたというか、「スカスカ」になってしまった官暦が寂しく見えたようです。何処にでも、「昔は善かった」という声はあるもので、そうしたニーズに応えたのがおばけ暦だったのです。ではなぜゲリラ発行されたのかというと、当時は暦は政府から許可を得て出す物でしたから、誰でも勝手に作れる物ではなかった。しかも要望のある暦注は、これもお上が禁止してしまっているわけですから、こんなものを書き込んだものを暦として刊行することなんて出来ないのです。ちなみに、明治16年以降は、伊勢神宮が発行する暦以外は「暦」を名乗ることも禁止されたので、そんな禁止事項だらけの暦は陽の当たる真っ当な場所では作ることが出来なかった。官憲の目を逃れてこっそりと非合法に出すしかない訳です。そして、何処の誰が発行しているのか解らない「おばけ」が出来たのでした。おばけ暦は改暦以前に刊行された「略暦」という比較的簡便な暦の体裁を真似て作られました。発行者の欄には、大阪市西区新町 福永嘉兵衛なんて縁起のよさそうな名前が選ばれていたようですが、もちろんこの発行元は架空のもの。実際の発行元は官の摘発を畏れて、点々とします。だからつかみ所のない「おばけ」な訳です。それまでずっと暦を飾ってきた沢山の暦注が一気に絶滅してしまって、寂しい思いをしていた人々には、懐かしい暦注が書かれたこの「おばけ暦」に対する一定の需要が有りました。需要が有れば、危ない端を渡っても供給してもうけようと言う人も後を絶たず、おばけは撲滅されることもなく生き残りました。ついでですが、暦注が載った暦とは言いましたが、改暦以前の暦にあった暦注がそのまま載ったかというと、そうでもありません。流石に公には禁止された「暦注」を堂々と書くことには抵抗があったのか、全部書く(というか、計算する)のが大変だったのか、それまでの由緒正しい(?)暦注一族に代わって、それまで日の目を見なかった、六曜とか九星などが暦注みたいなもの(暦注風味とでも申しますか?)として、台頭することになりました。

◇「おばけ暦」その後
 こうして生まれたおばけ暦は、幾多の取り締まりを受けながらも根強く生き残りました。「おばけ暦」生き残りの理由の一つとしては、明治43年以降の伊勢の神宮暦から、旧暦の日付が消えてしまったこともあったように思います。旧暦での日取りで伝統行事を行うという地域は、今でも結構ありますから、そうした情報を得る手段としては、おばけ暦は便利な存在だったと言うことが出来るでしょうから。さてさて、こうしてしぶとく生き続けた「おばけ暦」にとって、大変苦しい時期がありました。太平洋戦争(大東亜戦争)末期がその時期です。この時期には、物資が不足し、紙も貴重品となり、まともな本を作ることも困難となっていましたから、そもそも違法な暦である「おばけ暦」の発行などは論外と、取り締まりが厳しくなりました。また、そうした取り締まりの目をかいくぐったとしても、そもそも紙が手に入らないのでは、発行のしようもないという問題もあったのでしょう。そういう事情があって、頂いたメールにもあるとおり、昭和18,19年といった時代のおばけ暦には、まずお目にかかれないということになりました(あったとしても、戦災でほとんど焼けてしまったでしょう)。ところが、こんな苦難の時代を生きた「おばけ暦」にも春の時代がやってきました。終戦後、進駐軍の命令により出版が自由化し、伊勢神宮の神宮暦以外も「暦」を名乗って出版することが出来るようになったからです。終戦後は相変わらずの物資不足、紙不足ではあったものの、それだけに人々は読み物に飢えていたようで、出版すれば何でも売れたという時代だったそうですから、苦しい時代を乗り越えた「おばけ暦」も一気に陽の下に躍り出ることが出来るようになりました。陽の下に躍り出たら、もう「おばけ」ではありませんがね。現在年末になると一般の書店に大量に列ぶ「○○運勢暦」のような名前の暦は、この明治のおばけ暦の末裔。今では百万部以上の販売部数を誇るものもあるとか。「おばけ」も今や、立派に市民権を得ることが出来たようです。

◇そもそもの「質問」への答え
 メールを頂いたことで、これ幸いと「おばけ暦」の話を書いてしまいましたが、ここでようやくメールで頂いた質問への回答です。

 > おばけ暦を自分で作成する事は可能でしょうか?
 > 作成するためには何を勉強したら良いのでしょうか。

 答えは「出来ます」です。

 「おばけ暦」には、正式な形式などない(そもそも、勝手に作られた、つかみ所のない「おばけ」ですから)ものなので、どんな風に作ればいいかという問題はありますが、一応その末裔とも言うべき「○○運勢暦」が沢山あるので、形式や内容はその辺を参考にして決めればよいでしょう。次に、そこに書き入れる旧暦の日付や暦注の計算方法などを勉強して、書き込んでゆけばよいだけです。暦注の計算方法(撰日法(せんじつほう))については、占い関係の本で勉強するということになるかと思いますが、占いの本は、具体的な計算方法を載せていないことが多い(というか、ほとんど書かれていない)ですし、そもそも「流派によって撰日法は異なる」なんて言うことも多いので、それぞれの暦注の撰日法の原理と実際に発行されている各種の運勢暦等に記載されている暦注とを、引き比べて計算手順を作っていくという面倒なことしないといけないかなと思います。そういうのは面倒だな~というあなたには、いいサイトがあります。「こよみのページ」というサイトです・・・(自爆)。

 宣伝みたいで恐縮ですが、「こよみのページ」の

  その他の暦日計算 → 暦注計算

 に進むと「おばけ暦」に書かれていたような内容のほとんどを計算して1月毎に表示してくれます(年月の指定で、お尋ねの昭和18,19年なども計算出来ます)。

  暦注計算 http://koyomi8.com/sub/rekicyuu.htm

 また、その暦注計算のページからリンクしている「暦注の説明(その1~3)には、このページで計算している暦注の撰日法の説明がありますので、こちらで勉強して、ご自分でも計算してみると言うことも出来ますので、一度御覧いただければと思います。こんなので、ご質問への答えになったでしょうか?

◇最後に「余談」
 そういえば以前、『「暦注計算」の計算結果をきれいに印刷出来ない?』というご相談をいただいたことがあります(10年くらい前?)。その時は、表示しているページをそのまま印刷してお使いくださいと言ってお茶を濁してしまいましたが、今なら PDFファイルにして、それを使って印刷してもらうなんていう手もあるななんて、思いました。『令和の「おばけ暦」 発行元 かわうそ@暦』うむ、発行人の名前が目出度そうではないのがイマイチ。で、需要があるかな??

                          (「2022/12/21 号 (No.5926) 」の抜粋文)
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和名:ニワナズナ(庭薺)
2022.12.21撮影
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