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【情けは人の為ならず】(なさけはひとのためならず) [かわうそ@暦]

【情けは人の為ならず】(なさけはひとのためならず)
 情けを人にかけておけば、めぐりめぐって自分によい報いが来る。人に親切にしておけば、必ずよい報いがある。人に情けをかけるのは自立の妨げになりその人のためにならない、の意に解するのは誤り。 《広辞苑・第七版》

 語釈の後半でわざわざ誤りとして採り上げている「人に情けをかけるのは自立の妨げになりその人のためにならない」という意味に捉えている人には、今までのところ出会ったことがありませんでした。もっとも、この言葉自体を使うことがそんなに多くあるわけではありませんので、その中で更に間違った意味で使う場面に出くわすなんてことは、そうそうないということでしょう。 先日、偶然この言葉について人と話をしていました。この言葉を使う場面ではなくて、まさにこの語釈にあるように誤って使われることのあることわざの一例として、会話の俎上に載せたのですが、その会話の中で「そうなんですよね、私もずっと間違った方の意味で覚えていました」という言葉を聞きました。お、いた!でも、ご本人が既にそのことに気がついておいででしたので、現物を発見したと言うわけではありません。残念。しかしその方、結構な年齢の方ですから、かなりの世代までこの誤った意味が浸透しているということですね。さてさて、こんな話をしながらふと、この言葉を使う場合を思い描いてみました。そして、もしかしたらこの言葉には、更に裏があるのではないかと考えてしまいました。思い描いた場面は次の様なもの(以下、かわうその妄想)。

「A氏:困ったな、どうしよう・・・
 B氏:どうしました? お手伝いしましょうか。

 A氏:いえいえ、そんな。何とかなりますから気にしないでください。
 B氏:いいんですよ。『情けは人の為ならず』というじゃありませんか。

 A氏:そうですか、そうおっしゃるなら、お言葉に甘えさせて頂きます。」

 とこんな具合のやりとりを想像しました。ここまで考えたときにふと思いました。このやりとりの中で、本当にB氏は「人に親切にしておけば、必ずよい報いがある」なんてことを考えているだろうかと。多分そんなことを考えてはいません。ではB氏はどんなことを考えていたのだろうか。手助けしてもらうということは、人に迷惑をかけてしまうこと。迷惑をかけてはいけないと思ってしまうのが人情。A氏も困っていながらも、そう思って手助けを断る。でも「貴方を助けることで自分にもよい報いがあるのだから、気にしないで」と言われたら、人に迷惑をかけてはいけないというA氏の精神的な重荷は取り払われるのでは。B氏は、そのためにこの言葉を使ったのかもね。

 辞書の語釈には見つけられませんでしたが、この言葉を使う場面を考えるとと、案外「気にしなくていいんですよ」と言う意味もあるみたい。私たちは辞書には書かれていない、こんなあれやこれやを考えながら使う言葉を選んでいるのかもしれません。

                          (「2024/02/21 号 (No.6353) 」の抜粋文)
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